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調査, 執筆:横山雅司. 山本弘, 寺薗淳也, 本城達也
巷では「アポロは月に行ってない」とする、いわゆるアポロ陰謀論を信じる人が後を絶たない。その理由のひとつとしては、そもそもアポロ陰謀論を信じている人々に共通の特徴として、「宇宙開発や宇宙船、月に関する正しい知識の欠如」があげられる。月面が無重力だと思っていたり、宇宙服が薄い布とガラスのヘルメットだと思っていたり、アポロの乗組員が次々に謎の怪死を遂げたと思っていたり、誤った知識を持ってしまっている人たちが多い。
そこで、ここではまず正しい知識を身につけるために、基礎となる宇宙船や宇宙開発について解説を行い、その後、個別の事例についてはFAQで詳しく解説することにする。
以下に掲載されているほとんどの写真はクリックすると拡大できる。
そもそもの始まり
第二次大戦末期、イギリスの人々はヒトラーからの恐怖のプレゼントに苦しめられていた。ナチスドイツ軍が開発した秘密兵器「V-2ミサイル」である。先に実戦投入されていた「V-1」は、爆弾に翼とジェットエンジンを付けたスピードの遅い「空飛ぶ爆弾」にすぎず、当時の戦闘機がちょっと翼のハシで突ついただけでコースを外れるような代物だった。
しかし新たに開発されたV-2ミサイルは、先のV-1の性能をはるかに上回る性能を実現。開発したのはドイツの若き科学者ヴェルナー・フォン・ブラウンである。もともと彼は、「自分のロケットを月に送り込む」という目標を持っていたものの、時代がそれを許さなかった。
(*右)アポロ11号に携わっていた頃のフォン・ブラウン。彼がアポロ計画で果たした役割は非常に大きい。
結局、彼は自分の才能を見いだした陸軍士官のもとで研究を続けることになり、その才能を持ってあまりにも時代を先取りした兵器「弾道ミサイルV- 2(A4)」の開発に成功。 V-2がロンドンに着弾した際には、「ロケットは完璧に動作した。だが違う惑星に着陸した」という言葉を残している。
長距離を飛行し超高速で落下してくるV-2は防ぐ手段がなく、その恐るべき可能性ゆえ戦後、アメリカとソ連は先を争ってドイツのロケット技術者を自国へ連れ去った。 これがその後、米ソ冷戦下での宇宙開発競争につながっていく事になる。 (横山)
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ロケットとは何か?
ロケットとは、ロケットエンジンによって推進力を得る飛行機械である。飛行機などに搭載されるジェットエンジンが、吸入した空気に含まれる酸素で燃料を燃やして後方にガスを勢いよく噴出して推進力を得るのに対し、ロケットは元々機体内に燃料を燃やす為の酸化剤を積んでいる。そのため酸素がない宇宙でも稼働するのである。
ロケットは燃料の種類によって「固体燃料ロケット」と「液体燃料ロケット」に大別される。固体燃料ロケットは酸化剤と燃料を混ぜた固体の燃料をロケット内に詰めた物で、構造が単純ですむが一度点火すると制御が難しいという欠点がある。
一方、液体燃料ロケットは液体の燃料と酸化剤を別々の容器に納めて、必要なだけ燃焼させる事ができる。そのため細かい制御は利くが、構造は複雑になる。 アポロ宇宙船を宇宙まで運ぶのに使われたロケット「サターンV(ファイブ)」は液体燃料ロケットである。 (横山)
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ロケットの仕事
子供向けのイラストでは宇宙を行く雄々しいロケットの姿が描かれている場合が多いが、基本的にロケットの目的は地上から衛星軌道上(*1)に荷物(宇宙船や衛星など)をあげることである。そのため燃料を消費し尽くすと切り離されて捨てられるものであり、宇宙にたどり着くのは多くの場合、衛星などの貨物のみである。
(*1)衛星軌道とは、地球などの惑星に物体が落ちようとする力と地平線の向こうの宇宙に飛んでいこうとする力が釣り合って、地平線の彼方へ向かって惑星の丸みにそって落ち続ける状態になる、その通り道の事。宇宙船や衛星は自然に落下している状態のまま惑星の周囲を回るので、結果として燃料を消費せずに浮いていられる。図を使った解説は「人工衛星や宇宙ステーションが落ちて来ないワケ-東北電力」がわかりやすい。
アポロ宇宙船を打ち上げた「サターンV型ロケット」は、一段目エンジンと二段目エンジンを次々に使用しながら、その上にある宇宙船本体、貨物(着陸船)、月までの加速に使う三段目(三段目エンジンも打ち上げ時に少し使われる)を打ち上げた。
ちなみに「スペースシャトル」は、本体内部は空洞で(そこに貨物を積む)、燃料タンクのないエンジンだけ付いたグライダー、外付けの燃料タンク、補助の固体燃料ロケット、で構成されたシステムである。翼があるので直感的にはよく飛びそうに見えるが、実際には帰還時だけしか使わないグライダーをわざわざ打ち上げるという行為には、破損が致命傷になる翼がむき出しである点など問題も多い。(横山)
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アポロ計画の宇宙船
高さ約85メートルの巨大なサターンV型ロケットと、その先に取り付けられた貨物室、そこに格納された着陸船、さらにその先には人が乗り込む司令船と、司令船に動力を供給する機械船からなる。開発の中心には、前述したあのヴェルナー・フォン・ブラウンがいる。
初の月面着陸は11号。それ以前に8号が月周回に成功。10号が着陸船の切り離しのリハーサルなど綿密な準備が行われていた。もちろん8号以前から何度となく試験飛行が繰り返されており、11号は「ぶっつけ本番」ではない。月面着陸を行ったのは11号、12号、14号、15号、16号、17号である。13号は月へ向かう途中で事故を起こし、着陸を断念した。
1号(当時は1号とは呼ばれていないが)において、訓練中に火災事故が発生し宇宙飛行士3名が殉職。この事実が陰謀論を取り上げた番組では内容をゆがめた形で流され、これをうろ覚えした人々が「奇怪な謀殺事件」だと思い込んでいるようだ。
本来20号まで準備されていたが、世論の関心が薄らいだ事やそもそも国威発揚といういわばプライドの為だけに莫大な予算をつぎ込むことができなくなり、残された機体は博物館に飾られるなどして別の計画に流用される事となる。 (横山)
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月着陸船
月面に降り立つ為に開発された宇宙船。着陸用エンジンが搭載された下段と離陸用エンジンと宇宙飛行士用キャビンが搭載された上昇段からなる。2人乗り。写真で見る印象より大きく、ちょっとした二階建て住宅程の大きさがある。とはいえ巨大なサターンVと比べると豆粒のように小さい。
下段は金属のフレーム内にエンジンと燃料タンク、道具入れがあり、それを熱を防ぐ金属箔で覆っている。上昇段は操縦席等人間の居住空間とエンジン、燃料タンクからなり、帰還時にはこの部分だけが月面を離れ、基本的に使用済みの機材は月面に放棄される。乗組員が月の衛星軌道上で待つ司令船と合流、乗組員が司令船に乗り移ると上昇段も廃棄される。 (横山)
(*上)アポロ11号の月着陸船 「イーグル」と宇宙飛行士のオルドリン。
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月面車
アポロ15号から運用が開始された月面用電気自動車。ゴムではなく金属を編んでできた熱に強いタイヤや大きな通信用アンテナが印象的である。輸送時には小さくたためるようになっており、月面で着陸船下段の格納場所から出して展開する。地球から遠隔操作できるTVカメラが搭載されており、これで撮影された映像も多い。ちなみに月面車運用前はTVカメラは三脚に取り付けられていた。
余談だが、12号の飛行では映像記録が少ない。これは月面での活動中に12号乗組員があやまってカメラを壊した為である。よく「月面の映像は失敗した時のバックアップのためにあらかじめ地上で撮影した物だ!」という主張をする人もいるが、バックアップなど何もされていないのである。 (横山)
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宇宙服
アポロ計画で使用された物はA7Lというタイプである。もちろん薄い布などではない。それどころか堅牢であったり、耐熱性を持っていたりする当時の新素材を何重にも重ねて作られている。
すなわち表面を覆う金属蒸着されたガラス繊維でできた堅牢なベータクロス、カプトンフィルム(堅牢で熱にも強い)、ダクロンやマイラーフィルム(どちらも PETボトルに近い素材)、ラバーコートされたナイロンなど20層からなっている。さらに肘や膝など特にダメージを受けそうな場所には金属を編んでできた肘あて膝あてがついている。
(*右上)アポロ11号でアームストロング船長が使用した宇宙服。
(*下)保護用バイザーを動かすオルドリン。
また月面の熱に対応するため、船外活動時には通常の宇宙服の靴の上から月面用のブーツを履く。さらにヘルメットは頑丈なポリカーボネイト製であるうえ、船外活動時にはさらにヘルメットの上から保護用バイザーをかぶる。これには強烈な太陽光線から宇宙飛行士の顔を守る、サングラスのようなコーティングが施されたシェードが取り付けられており、これは任意に動かす事ができる。
ヘルメットの写真によって、宇宙飛行士の顔が見えていたり風景が写り込んでいたりするのはこのためである。手に装着するグローブも非常に重厚なものだが、指先にシリコーンゴム製のキャップがついているのである程度細かい作業をこなす事ができる。
生命維持装置を含む全体の重量が81.6キロにもなり、重力の小さい月面でなければとても着ていられない代物である。また関節があまり曲がらないため、一度転ぶと起き上がるのに苦労する。実際の映像でも盛大に転倒して仲間に助け起こされたり、低重力独特のはねるような動作でなんとか起き上がる場面が残されている。 (横山)
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ヴァンアレン帯
ヴァン・アレン帯には強力な放射能があって、そこを通過すると人間は死亡すると陰謀論者は信じているようだ。ヴァン・アレン帯とは太陽から来た粒子が地球の磁場に捕まって地球の周りを取り巻いている物である。ヴァン・アレン帯にあるのは粒子ビームである陽子線や電子線であり、これらは透過力が非常に弱く、宇宙船の外壁で容易に遮蔽できる。陰謀論者は透過力の強いガンマ線などと混同しているようだ。
宇宙船はヴァン・アレン帯のもっとも放射線の強い場所をわずか数分で通り過ぎるため、宇宙船に乗り組んでいる宇宙飛行士のヴァンアレン帯を通過する際の被爆量は、即日死亡する致死的な被爆量の1000分の1だという。健康によくはないが、命がどうこうというレベルには程遠い。
ヴァン・アレン帯を無事通過しているのは人間だけではなく、ソ連の月探査衛星ゾンド5号にはカメ(ホルスフィールドリクガメ)や昆虫の幼虫(ミールワーム)などが積み込まれ、月を周回して無事に地球へ帰還している。ちなみにヴァン・アレン帯を発見したのはアメリカの衛星エクスプローラー1号である。都合のいい部分はアメリカの言う事を信じるようだ。(横山)
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客観的な視点
サターンVの発射は数万人もの見物人に見守られながら行なわれた。「実は発射すらされていない」という珍説はお話にならない。ケネディ宇宙センターには発射を見学できるスペースがあり、また、ケネディ宇宙センター周辺は見晴らしがよく、ホットドッグ片手に発射を見物できるようなポイントがあるのだ。
(*左)アポロ14号の打ち上げ
(*右)アポロ15号の打ち上げの見物人
アポロ11号がテレビ中継を始める時間、アメリカ大陸は電波の届かない地球の反対側にいたため、オーストラリアのパークス天文台が代わって月からの電波を受け取っていた。その他世界各地にアポロの電波を追跡する追跡ステーションが配置されていた。
月面に残された反射鏡にレーザーを当てて月と地球との距離を測る実験はアメリカのマクドナルド天文台以外にフランスのコートダジュール天文台でも行なわれている。
(*右)アポロ11号によって設置された反射鏡
日本の月探査衛星「かぐや」の地形カメラが得たデータから作られた立体地図の地形が、アポロ15号の乗組員が撮影した月面の風景写真の地形と完全に一致した。(2008年)
(*左)かぐやの地形カメラのデータから作られた立体地図の地形
(*右)アポロ15号の撮影画像
陰謀論にありがちな事だが、基本的な知識もないままアポロ陰謀を主張している人は、最初は映像だけでっち上げて"NASAの一部の人間だけ"が嘘の発表をすれば陰謀は完成だろうと簡単に考えていることが多い。
ところが次々に月へ行っていたという証拠が出てくると、「実はその関係者もグルだったのだ!」と言うしかなくなってくる。これは突き詰めると、「世界中の思想や価値観も違う何万人もの天文学者や天文台や宇宙機関の職員、ロケットの技術者」までもが全員アメリカに味方し、陰謀に加担して嘘をついていることになってしまう。当たり前だが、そんな訳はない。(横山)
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アポロ計画の一連の流れ
基礎編の最後はアポロ計画の一連の流れをまとめた動画を紹介しよう。今回作成した動画を見れば、アポロ計画についてよく知らないという人も理解しやすいのではないかと思う。(横山)
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―写真や映像に関するFAQ―
Q. なぜ月面で撮影された写真には星が写っていないのか?
A. 非常に明るい月面にカメラの露出を合わせたからである。明るい物が綺麗に写る設定にした場合、それよりずっと暗い光は写真には写らない。
宇宙に限らず、地球から星空を撮影する際もシャッターを開放に設定し、長時間露出する必要がある。このようなことを地球の昼間以上に明るく照らされている昼の月面でしたら、写真が真っ白になってしまうだろう。(横山)
(*右)アポロ11号のときに撮影された月面写真。
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Q. 真っ暗になるはずのところが明るく照らされている。 もう一つ照明があったのでは?
A. 宇宙飛行士が活動したのは月の昼間である。空が黒いので勘違いしそうになるが、月面は非常に明るく照らされており、レフ板(*2)のような照り返しが起こるため、影になる部分も明るくなるのである。
(*2)写真や映像を撮影する際、暗い部分を照らすために使う白や銀色の板。
(*下)左は逆光で撮られたアポロ16号の飛行士。右は同じく逆光で撮った再現写真。
写真を見ればわかるとおり、太陽のように強い光源で照らされても、ある程度光を反射する地面であれば光源が強い分照り返しも強くなり、被写体の影の部分も写るのである。そして白い宇宙服を着た宇宙飛行士に露出をあわせると、もっと暗い岩の影は濃くなるのだ。(横山)
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Q. 影が平行に映っていない。複数の照明で撮影されたからでは?
A. そもそも複数の光源を使うと複数の影ができる。しかしそうなっている写真はない。
では、なぜ平行のはずの影が平行に写っていないのか。原因は二つある。まず一つは地形の影響。 わかりやすくCGで再現した下の動画1を見てほしい。地面におちた影は当然ながら地面の凹凸の影響を受ける。実際には平行な影であっても、地面が盛り上がっていたり、くぼんでいたりした場合、見かけ上平行に見えるとは限らないのである。
なぜ誰もがハリケーンフェリックスの恐れ
もう一つは遠近法の影響である。下の再現動画2を見てほしい。手前の物体と十分に奥にある物体の影は実際には平行であるにもかかわらず、遠近法の影響で見かけ上は平行になっていない。
また左の写真の場合では、写っている菱形は同じ型から切り出した同じ形の物だが、手前の物に比べて奥にある菱形は明らかに縦につぶれて見え、結果として一辺の角度が変わっている。十分に遠くにある地面の模様や地面におちた影は、見かけ上の地平線に近づくほど上下に圧縮されるため、例え平行な影であっても平行には見えないのである。 (横山)
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Q. 転んだ飛行士が特撮用のワイヤーで引き上げられている映像がある?
A. まず、テレビなどで「ワイヤー(のフック?)」とされた物の正体は「通信用アンテナ」である。宇宙飛行士が背負っている「PLSS」という生命維持装置の上段は「OPS」という非常用の酸素タンクが入っており、そのユニットのてっぺんに通信用のVHFアンテナが装着されているのだ。
(*右)アポロ17号の宇宙飛行士を撮った写真に写る通信用アンテナ。
(*下)問題の動画。アポロ16号の宇宙飛行士が起き上がろうとしているシーン。
次に、「転んだ宇宙飛行士がワイヤーで引き上げられている」とする映像については、確かに一見しただけでは不自然な起き上がり方をしているようにも見える。しかし映像を注意して見ると、起き上がろうとしている宇宙飛行士は、左手を自分の前に立っている宇宙飛行士に当て、それを支えにして起き上がっていることがわかる。つまりワイヤーなどではなく、自分の左手と前の宇宙飛行士を利用して起き上がっているのである。(横山)
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Q. 宇宙飛行士のカメラにはファインダーもなく、分厚い手袋をはめた状態で撮ったにもかかわらず、露出や構図がどれも完璧なのはおかしい?
A. もちろん失敗写真もある(*下)。また、そこまでひどくないものの構図がイマイチな写真もある。しかし、そういった写真はメディアが使うには向かないので、上手く撮れた写真ばかりが選ばれることになる。その結果、どれも完璧な写真ばかりだと思い込む人が出てきてしまうようだ。
(*下)失敗写真の一部。左と中央はアポロ16号、右は17号のときに撮られた写真。
とはいえ失敗があっても中には見事な写真が撮れたのは、宇宙飛行士たちが使ったカメラには、操作がしやすいように工夫が施されていたこと、そして宇宙飛行士たち自身の努力の結果である。
右の写真を見てほしい。シャッターボタンは通常のカメラより数倍大きな四角い形をしており、簡単に押すことができる。また、レンズには操作がしやすいように突起が付いていて、その突起を指で押して回すだけでピントを合わせることが可能となっている。さらにそのピントを合わせる段階は近距離、中距離、遠距離、望遠の4つに対応。そのため、被写体との距離を細かく気にする必要はない。
(*右)アポロ13号のジム・ラベルとカメラ。
また、アポロの宇宙飛行士たちに写真技術を指導してきたNASAのチーフ・フォトグラファー、リチャード・アンダーウッドによれば、宇宙飛行士には月面で使うカメラを日常的に持ち歩くように指示していたという。彼らはカメラを家に持ち帰り、何か行事があるたびに家族や友人を撮っていたため、非常に扱い慣れていたのである。(本城)
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Q. アポロ11号のアームストロング船長が人類で初めて月面に降りた時、誰もいないはずなのに、なぜ降りる瞬間を後ろから撮影できたのか?
A. まずTV中継のとき。アームストロングが月面に降りる場面を撮影したのは着陸船の脚部に搭載されたカメラである。
一方、写真の場合、アポロ陰謀論でよく引っ張りだされる「なぜかアームストロングが降りるシーンを後ろから撮影した写真」(*右)は、実はもう一人の宇宙飛行士オルドリンが降りてくるところをアームストロングが撮影したものである。 (横山)
(*右)月着陸船から出てくるオルドリン。撮影者はアームストロング船長。この写真では、あくまで被写体はオルドリンであって、アームストロングではないことに注意。
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Q. 宇宙飛行士2人が写ったカメラがパンして2人の姿を追うシーンがある。2人しか月面に降りていないのに、なぜそのような映像が撮れたのか?
A. この映像は月面車に搭載された遠隔操作のTVカメラで撮影された。操作は地球で行うが、電波の往復に2.6秒かかるため時々飛行士の動きについていけない事がある。月面車が装備されていなかったミッションの映像では三脚にカメラを取り付けている。 (横山)
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Q. 月面でフワフワ歩いている飛行士を2倍速で見ると地球上で歩いているようにみえる。地球のスタジオで撮影したものをスローモーションにしたのでは?
A.月面で物が落下するには地球上の約2.45倍の時間がかかる。2倍すると地球上の動きに似るのは当たり前である。 (横山)
(*下)アポロ17号と16号の映像を、最初は普通、次は2倍速で比較している動画。
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Q. 空気がない(つまり風がおきない)はずの月面で星条旗がはためいている。地上で撮影した証拠では?
A. そもそも月面に持ち込まれた星条旗には旗が垂れ下がらないように折りたたみ式の横棒が入っている。月面ではそれを展開して設置するのだが、写真で見た場合、星条旗にシワがよっているため、あたかもはためいているように見えるのである。
(*右)アポロ11号のオルドリンと星条旗。
(*下)アポロ17号のサーナンとシュミットが星条旗を展開して設置しているところ。折りたたみ式の棒はしなるため、手を離した後、少しだけ揺れることもある。
一方、動画で旗が動いているシーンがあるが、この場合、必ず飛行士が星条旗に触っている場面か、触った直後の場面である。 つまり触ったから揺れているというだけである。
ちなみに「はためいている」という話と「スタジオで撮影された」という話を同時に信じている人までいる。もしそうだとすると、空気のない月面を再現するのに、わざわざ大型送風機を持ってきて大風を起こしてはためかせた事になる。そんなバカな事を一体誰がするというのだろうか。
この、「だったらどうトリック撮影した?」という視点は大切である。 例えば、CG技術のなかった当時、実物を撮影しない限り映像化が不可能な映像もある。下に示した動画では、月面車に搭乗した宇宙飛行士が延々月面の風景を映像に収め続けている。
この映像を撮影するには地平線の彼方まで続く月面のセットをたてて、なおかつ太陽並みの強力なライト一つでその全てを照らさなければならない。説明した通り、複数のライトを使うと影も複数できてバレてしまうからだ。仮に夜の砂漠で撮影するとしても、はるか彼方まで一つのライトで強力かつ均一に照らす事は不可能である。(横山)
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Q. 月面車や宇宙飛行士が歩くシーンでは、無重力の月面で砂が巻き上がらない。地上で撮影した証拠では?
A. 月面の重力は地球の6分の1であり無重力ではない。また、砂ぼこりが巻き上がるのは大気の動きに巻き込まれるからであり、もし砂ぼこりがもうもうと舞い上がるようなら、それこそ地上で撮影した証拠である。実際、当時の特撮映画では景気よく砂ぼこりが舞っていた。
月面で撮影された映像では月面車が派手に走り回っても砂ぼこりはまったく舞い上がらずに放物線を描いてすぐに落ちてしまう。これは月面車の走っている場所が、巻き上がる空気のない真空、つまり月面である証拠といえる。 (横山)
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国際的な生活は、信頼性を提供してい
Q. アポロの映像はエリア51で撮影された?
A. 「アポロ疑惑の映像はエリア51で撮影された。その証拠に、エリア51周辺には、月のクレーターに似た丸い穴が開いたような場所がある。」という話が、テレビで取り上げられたことがある。
エリア51は、原爆実験場だった場所に隣接した場所を選んで建設された。おそらく、原爆実験ができるくらいの広い場所だったということと、軍用地として確保されていたためだろう。
エリア51を撮影した衛星写真でみられる、クレーターに似た丸い穴が開いている場所は、かつて原爆実験が行われた、「ネバダテストサイト」と呼ばれる場所と考えられる。この丸い穴は、原爆実験が地上で行われていた際に、原爆の爆発によって開いた丸い穴である。
大きな地図で見る
原爆実験の穴がクレーターと似ているのには、科学的な理由がある。月面や地上に隕石などが衝突した際には、地上の一点で大きなエネルギーが放出される。これは、現象として爆発に似たようなものになる。そのため、原爆など大きな爆発によってできた穴と、クレーターとは形が似てくるというわけだ。かつて(1950年代)、クレーターの研究には、原爆によりできた穴の形状を調べることも行われていた。
そもそも、アポロ陰謀論者の人たちは、「アポロの映像(宇宙飛行士たちが活動している映像)はエリア51の施設の中で撮影された」という主張をしているわけで、月面そのものの映像を撮影するためにエリア51を選んだ、というわけではないはずだ。
さらにいえば、原爆によってできた穴はそれほど多くなく、しかも限られた場所にしか存在しないため、アポロ、そしてそれ以降の月探査機が撮影してきた月面の映像をカバーできるほどのバリエーションは存在しない。(寺薗)
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―ロケットや宇宙船に関するFAQ―
Q. ロケットは空気を押して飛ぶから真空中では動かない?
A. もちろんそんな事はない。これは「作用、反作用」の法則を根本的に勘違いしているために起こる誤りである。ロケットの原理を「作用、反作用」で説明する場合、「噴射ガスが空気を押している」のではなく、「ロケットが噴射ガスを押している」と見なすべきである。 強力にガスを噴射する事によって得られる反作用で前進しているのだから、そこに空気が介在する余地はない。
実際、現在使われている多くの衛星や探査機は、姿勢制御には機体の各所に取りつけられた小型のロケット・エンジン(バーニア、あるいはスラスターという)を噴射して行う。 (横山)
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Q. サターンV型ロケットの打ち上げと比較すると、あんな小さな着陸船では月から離陸できるはずがない?
A. 計47トンもあるアポロ宇宙船を地球の引力から離脱させて、月への軌道に乗せるために作られたサターンV型ロケットと、2人の飛行士と少量のサンプルを月周回軌道まで持ち上げる月着陸船では、ペイロード(積載荷重)がまるで違うのだから、大きさも違うのは当たり前である。
また、月の引力は地球の5.9分の1、第一宇宙速度(周回軌道に乗るために必要な速度)は4.7分の1にすぎず、そのうえロケットの加速を妨害する空気抵抗も存在しない。宇宙船を引力に逆らって離陸させ、第一宇宙速度まで加速して周回軌道に乗せるには、地球の場合に比べてずっと小さな推力、少ない燃料でいいのである。
陰謀論者の中には「ロケットの打ち上げには巨大な発射台が必要なはず」と思いこんでいる者もいる。月着陸船が発射台なしに発射しているのはおかしい、というのだ。しかし発射台というのは、細長いロケットが倒れないよう、発射直前まで支えておくためのものである(エンジン点火と同時に、支えていたアームが切り離される)。4本の着陸脚で支えられている着陸船に、発射台は必要ないのだ。 (山本)
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―その他のFAQ―
Q. 40年前に月に行けたのに、今は行けないというのはどういうことか?
A. 簡単に言えば、予算の問題である。アメリカが当時、アポロ計画に費やした予算は、250億ドルと言われている。当時は1ドル360円だから、ざっと9兆円だ。今、もう一度月に行こうとしたら、いったいいくらかかるだろうか。アポロ計画のノウハウが残っているから、開発費用などは大幅に削減できるだろう。しかし、それでもコストが何百分の一になることはありえない。
ロケットの技術そのものは、アポロの時代から飛躍的に進歩したわけではない。3人の人間を月に送るだけでも、アポロ宇宙船を打ち上げたサターンV型に匹敵する巨大なロケットが必要なのに変わりはないのである。
1960年代にアメリカがあれほど精力的に月面到達計画を進めたのは、ライバルであるソ連に先を越されるのではないかという不安があったからだ。大国の威信をかけて、月へのレースに勝たなくてはならなかったのである。
しかし、アメリカ人飛行士が月面に第一歩を印したこと、ソ連の有人月探査計画が挫折したことで、大金をかけて月に飛行士を送る動機がなくなってしまった。そのため、当初、20号まで計画されていたアポロ計画は、17号を最後に打ち切られたのである。
「40年前に月に行けたというのなら、もう一度行ってみせろ」という主張は、「400年前に大阪城を建てられたというのなら、もう一度建ててみせろ」と言っているのと同じだ。金と動機さえあれば、もう一度大阪城を建てることは可能だが、金と動機がないから誰もやらないのである。 (山本)
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Q. 感覚的にセットのようにも見えるのはなぜ?
A. 月は地球より直径が小さいので地平線が近くに見える上に、大気がないため、どんなに遠くでも霞んだようにならない。そのため、風景すべてが近くにあるように見える。
下に示した動画の、飛行士達の背後にある岩はせいぜい5~6メートル先にある高さ3メートルほどの岩に見えるが、動画を見ていくとわかるように実際には3階建てのビルほどの大きさの巨大な岩である。 このように月面での距離感は地球とは異なるので注意が必要だ。(横山)
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Q. アポロの宇宙飛行士たちはみんな月旅行を語りたがらない?
A. 事実無根だ。アポロの宇宙飛行士の中には体験談を発表している者が何人もいて、中には日本語で読める本もある。 (山本)
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Q. ロシアのプーチン大統領が記者会見でアポロ計画の捏造を暴露した?
A. この話は多くのサイトや掲示板にコピペされているが、そのソースは「月面着陸を否定~露大統領、NASAの虚構を暴露 」というサイトである。このサイト(メルマガ)の作者は、2週間後に次のようなネタバラシをしている。「専門家もだまされた~『アポロ疑惑』研究者がひっかかるとは!?」
「05年4月1日以降お送り頂いた多数のファンメールによると、前回と前々回の宇宙関連記事(エイプリルフール特集)の内容をすべて事実と思い込んでいる方が予想外に多いようだ。このまま放置しておくと問題が起きそうなので、つまり、この問題の探求が間違った方向に進みそうなので、今年は敢えてタネ明かしをさせて頂く。今年05年の特集記事に関して言えば、プーチン露大統領、秋山豊寛・元TBS宇宙特派員、ドルダン欧州宇宙機関(ESA)長官の発言と、ロシア国営放送 RTR、仏ルモンド紙、カタールの衛星放送アルジャジーラの報道(放送)内容はフィクションだ。(後略)」
そう、これはエイプリルフールのジョーク記事だったのである。作者はアポロ捏造説を信じており、エイプリルフールにこうした嘘のメルマガを配信し、自説を広めようとしたようだ。
「ただ、いままでアポロ疑惑の研究者が解明できなかった『アポロ11号の月着陸船がぶっつけ本番で月面に垂直着陸できた(はずがない)理由』と『ソ連が米国のウソを指摘しなかった理由』については、前々回の記事の中で秋山発言の形を借りて書いたとおりで、筆者はこの推理に自信を持っている」
作者が秋山氏の口を借りて語っている説によれば、アポロ11号の月着陸は「ぶっつけ本番」で、ソ連がアメリカの嘘を追及しないのは、追及すると今度はソ連のルナ2号が月面に激突していたのに「着陸」と発表していた嘘がバラされるからだという。
これは実におかしな話である。 第一に、アポロ11号の月着陸は「ぶっつけ本番」ではなかった。10号がリハーサルをやっている。また、ルナ2号が「着陸」と発表されたという事実もない。当時から「月面に命中」と報じられていたのだ。
そもそも、ルナ2号には着陸用のロケットすら付いていなかった。最初から月にぶつけることを目的として打ち出された探査機であり、むしろ月面への衝突は大成功だったのである。 (山本)
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Q. ある番組の中で、元CIA副長官、アメリカ国防長官、元米国務長官らが実名でインタビューに答え、アポロ計画がでっち上げだったと暴露した?
これはフランスのテレビ局アルテ社が2002年に製作した、『Operation lune』という番組(英語版タイトルは『Dark Side of the Moon』)である。
本国フランスとドイツでは2002年10月16日に放映、オーストラリアでは2003年4月1日に放映、他にもフィンランド、オーストリア、デンマークなどで放映されている。日本では2003年大晦日の特番『ビートたけしの世界はこうしてダマされた!?』(テレビ朝日)でその一部が放映された。
さて、常識を働かせてみよう。本当にラムズフェルドやウォルタースやキッシンジャーといった有名人が、アポロの月着陸が捏造だったことを暴露したなら、それこそ全世界のテレビや新聞が大々的に報じると思わないだろうか?なぜ世界のメディアはこの大ニュースを真剣に取り上げないのだろう?なぜ日本ではビートたけしのバラエティ番組でしか取り上げられなかったのだろう?
なぜなら、これは大ウソ、冗談だからである。この番組で視聴者を騙すためにどんなテクニックが使われたかは、出演者の発言を抜粋してみれば分かる。
ヴァーノン・ウォルタースの発言。
「すべてがミサイル問題だったんだ。月へ発射されるロケットもミサイルも、中身は同じだからね」
「私は大統領に嘘をつくのは大変危険だと進言したんだ。民主国家では秘密はいずれ暴かれる。でもニクソンは悲しそうに『それでもやるんだよ』と言ったんだ」
「ソ連の諜報機関に聞いたらどうだ。彼らは知ってると思うよ」
ドナルド・ラムズフェルドの発言。
「大統領は激怒しました」
「私が大統領にそう言うと、キッシンジャーも賛成しました」
「私は今でもあの決定は正しいと思っています。アメリカの強さを認めさせるためにね」
「そしてニクソン大統領は『ぜひ君にこの仕事をしてもらいたい』と私に言いました。そこで急遽、必要な人材の洗い出しをはじめたんですが、そのような仕事ができる能力を持っていて、さらに、ニクソンがよく知っている人物でなくてはならない。思いつくのはたった一人でした。ニクソンは『それはいったい誰だ?』と聞いてきました」
ヘンリー・キッシンジャーの発言。
「あの時はすごい緊迫した空気だったよ」
「私は本気にしていなかった。でもそのまま話が進んでしまったんだ」
ローレンス・イーグルバーガーの発言。
「基本的にヘンリーとヘイグ、それからラムズフェルドによって決められたんだ」
よく読んでほしい。実は彼らはアポロ計画について何も語ってはいないのである。他の出演者やナレーターの解説の合間に、これらの言葉がはさみこまれているために、あたかもアポロ計画について語っているかのように錯覚してしまうのだ。
実は彼らのインタビューは、実際にこの番組が行なったものではない。他のドキュメンタリー番組のビデオをうまく編集したものなのである。
たとえば「私は今でもあの決定は正しいと思っています。アメリカの強さを認めさせるためにね」というラムズフェルドの発言は、湾岸戦争についてのものだそうだ。
その他の実在の人物(キューブリックの未亡人やNASA関係者)の発言も同様で、よく聞いてみれば、単にアポロ計画について語っているだけだったり、アポロと関係のない話をしているだけだと分かる。こうした真相は、『Operation lune』を製作したアルテ社のサイトで、クイズ形式(*3)で明かされている。
(*3)第1問は、12人の実在の人物の名前をドラッグ&ドロップして、顔写真と一致させるもの。第2問は、架空の7人の人物の名前をその元ネタと一致させるもの。フランス語だが、英語の固有名詞に注目すれば、だいたい意味は分かる。後の問題も同様に解いていってほしい。
なお、ここまで説明しても、「番組では、映画プロデューサーのジャック・トランス、ニクソン大統領元秘書のイヴ・ケンドール、元KGB工作員ディミトリ・マフリーといった人物が、アポロ計画の捏造を暴露していたではないか」といった主張をする人もいるかもしれない。
そういう人は、インターネット・ムービー・データベースで、「Jack Torrance」という名前で検索してみてほしい。そんな名前の映画プロデューサーは実在しないことがすぐに分かる。
実は「ジャック・トランス」というのは、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』で、ジャック・ニコルソンが演じた、狂った親父の名前なのである。
「ディミトリ・マフリー」というのは、同じくキューブリックの『博士の異常な愛情』のキャラクター名である。ピーター・セラーズ演じるアメリカ大統領の名前がマフリーで、彼が電話で話すソ連の首相の名前がディミトリなのである。
「イヴ・ケンドール」は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』で、エヴァ・マリー・セイントが演じた女スパイの名前だ。他にも、日本での放映時にはカットされたが、番組には「デヴィッド・ボーマン」なる人物も登場した。『2001年宇宙の旅』でキア・デュリアが演じた、宇宙船ディスカバリー号のキャプテンの名前である。
つまり彼らはみんな架空の人物なのだ。IMDBで検索すれば、演じた俳優の名前もちゃんと載っている。 これらは映画ファンであればすぐ冗談だと分かる話だし、映画に詳しくなくても、ちょっとインターネットで検索するだけで、真相が分かるはずだ。
しかし、「テレビで言っていることは全部本当だ」と信じて疑わない人や、分からないことは調べてみるという習慣のない人が、こうした嘘にひっかかってしまうのである。
監督のウィリアム・カレルがこの番組を作ったのは、単なる悪ふざけではなく、視聴者のメディア・リテラシーを問うという意図もあったようだ。テレビで流される情報を鵜呑みにしないでほしい。テレビはその気になれば、いくらでもあなたを騙すことができるのである。 (山本)
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